漢方薬のはなし15 ~歯磨きを嫌がる仔への工夫~

漢方薬のはなし

獣医師の林です。

この「陽だまりしっぽ通信」では、現在当院で取り入れている「漢方薬」についてお話しています。

前回は「シニアのワンちゃん・猫さんのお口の健康」についてお話しました。

 

今回は、飼い主様からよくご相談いただく、

「うちの仔、歯磨きを嫌がってしまうんです」

というお悩みについてお話ししたいと思います。

 

歯磨きを嫌がるのは、珍しいことではありません

ワンちゃんや猫さんにとって、口の中に歯ブラシを入れられるというのは、決して自然なことではありません。

最初から上手に歯磨きができる仔のほうが少ないくらいです。

むしろ、最初から嫌がらずにできる仔のほうが珍しいかもしれません。

 

嫌がる仔に無理に歯ブラシを入れてしまうと、

 

「歯ブラシ=嫌なもの」

 

と覚えてしまい、ますます歯磨きが難しくなってしまうことがあります。

そこで大切なのが、

「いきなり歯を磨こうとしない」

ことです。

まずは「口の周りを触る」ことから

最初は歯ブラシを使わなくても構いません。

お口の周りを優しく触るところから始めてみましょう。

 

顔を触る

口の周りを触る

唇を少しめくる

歯や歯ぐきに指で触れる

ガーゼなどで歯の表面に触れる

慣れてきたら歯ブラシを使う

 

というように、少しずつ段階を踏んでいきます。

最初は数秒で十分です。

嫌がる前にやめて、「できたら褒める」を繰り返します。

食いしん坊な仔では、それぞれの過程で味付きのデンタルジェルなどを少量なめてもらうのもよい方法です。

 

「歯磨きをしたら褒めてもらえた」

「おいしいものをなめることができた」

そんな経験を積み重ねることで、少しずつ「歯磨き=嫌なこと」ではなく、良い経験として受け入れやすくなることがあります。

 

「毎日完璧」より「少しずつ続ける」

歯磨きというと、

「毎日きちんと全部の歯を磨かなければ」

と思ってしまう飼い主様も多いと思います。

もちろん、できるに越したことはありません。

でも、最初から完璧を目指す必要はありません。

今日は右側だけ。

今日は前歯だけ。

今日は歯ブラシを口に入れられただけ。

それでも十分な一歩です。

大切なのは、

「できることを、できる範囲で、毎日続けること」

です。

 

歯ブラシ以外の方法もあります

どうしても歯ブラシが難しい場合には、ガーゼやデンタルシートなど、その仔が受け入れやすい方法から始めるのも一つです。

また、デンタルガムやデンタルジェルなどを補助的に組み合わせる方法もあります。

ただし、どんな方法でも、すでについてしまった歯石を元に戻すことはできません。

歯石が多い場合や、歯ぐきが赤い、出血する、口臭が強い、食べにくそうにしているといった症状がある場合には、まず動物病院でお口の状態を確認することが大切です。

 

東洋医学でも「その仔に合わせる」ことを大切にします

実は、これは東洋医学の考え方にも通じるところがあります。

東洋医学では、

「みんなに同じ方法をする」

のではなく、

「その仔の体質や状態に合わせて考える」

ことを大切にします。

元気いっぱいで何でも食べられる仔と、シニアになって体力が落ちてきた仔。

お口を触られるのが平気な仔と、少し触るだけでも嫌がる仔。

それぞれに合ったケアの方法は違います。

だからこそ、

「歯磨きができないからダメ」

と考えるのではなく、

「この仔には、どんな方法なら続けられるだろう?」

と考えてあげることが大切なのではないでしょうか。

漢方薬についても同じです。

漢方薬だけで歯石を取ったり、歯周病を治したりすることはできません。

歯科治療や毎日の口腔ケアを基本にしながら、その仔の体質や年齢、全身状態を考えて、必要に応じて漢方薬を取り入れていきます。

 

お口のケアは「できること」から

歯磨きが苦手な仔でも、できることはきっとあります。

まずは口の周りを触ることから。

1日数秒でも構いません。

無理をせず、その仔のペースで少しずつ続けてみてください。

そして、

「最近、口臭が気になる」

「歯ぐきが赤い」

「歯石が増えてきた」

「歯磨きを嫌がるけれど、どうしたらいいかわからない」

という場合は、一度お口の状態を確認してみることをおすすめします。

 

当院では現在、歯科検診を行っています。

その仔のお口の状態を確認したうえで、ご家庭でできるデンタルケアについても一緒に考えていきます。

また、必要に応じて、その仔の体質や全身状態に合わせた漢方薬についてもご提案させていただきます。

完璧な歯磨きよりも、無理なく続けられるケアを。

大切なご家族が、いつまでも美味しくごはんを食べられるように、一緒にお口の健康を守っていきましょう。